仙台高等裁判所 昭和46年(ラ)3号 決定 1971年3月04日
抗告人 相川幸子(仮名) 昭四二・一・二生
右法定代理人親権者 相川壽一(仮名) 外一名
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告人代理人は、「原審判を取消す。本件を福島家庭裁判所に差戻す。」との裁判を求め、その理由は、「本件名の変更は養親の愛情に基づくものであるが、法律上、この養親の愛情も十分保護されるべきである。子の命名権は実父母に与えられているのと同様に、本件のように生後間もなく養子縁組がなされた場合には、義親にも命名権が認められてしかるべきである。次に、原審判は、抗告人が名の変更をしなければ社会生活上著しい支障を来たすとは考えられないとするが、むしろ、社会的影響が少ない幼児のうちに変更した方が社会生活上望ましいと考えられるし、抗告人の福祉にも適する。なお、抗告人は原審に対し、「壽子」と変更することを求めたが、これを当用漢字による「寿子」と訂正して変更を求めるものである。」というのである。
当裁判所も、抗告人の本件名の変更許可申立は却下すべきものと認める。その理由は、原審判の理由中、「改名で使用したい新たな名は常用平易な文字でない上これをもつて、」とあるのを削除したうえ次のとおり付加するほかは、原審判の説示と同じであるから、その理由をここに引用する。
抗告人の改名を求める動機は、養親が抗告人との養子縁組後、抗告人を養父「寿一」の一字をとつて「壽子」と呼ぶようになつたことによるところ、それは、たとえ養親の抗告人に対する愛情の発露にもとづくものとしても、所詮は養親が、実父太田実届出にかかる抗告人の「幸子」の名が気に入らないことに帰着し、要するに名として甲乙評価し難い「幸子」と「寿子」との呼称に対する養親の感情ないし好みの問題にすぎないというべきである。
したがつて、本件は改名の必要性に乏しく、むしろ戸籍上の名を尊重するのが呼称秩序の安定性からいつて妥当であり、またそうすることが困難ではないというべきであるから、抗告人が幼児であつて名を変更しても社会的影響が少ないことをもつて、名の変更が認められると考えるべきではない。もし、本件のごとき場合、名を変更するにつき正当事由があると解するときは、再養子縁組の場合にも同様の問題を生じ、かくては各人の恣意による名の変更をも許容せざるをえないこととなり、到底是認できないのである。
よつて、抗告人の本件申立を却下した原審判は相当であり、本件抗告は理由がないので棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 羽染徳次 裁判官 田坂友男 丹野益男)